WORK & MILITARY

40s French Vintage Le Pigeon Voyageur Cotton Twill Double Breasted Jacket

定価
¥398,000
定価
特価
¥398,000
Tax included
COLOR : BLUE

SIZE ONE:着丈71cm 肩幅49.5cm 身幅56cm 袖丈61cm

MATERIAL : COTTON

19世紀の質実剛健なワークウェアや軍実物品としてのミリタリーウェアから、2000年代の洗練されたモダンアーカイブにいたるまで、衣服の歴史は常に時代の要請とデザイナーの思想によって形作られてしてきました。当店が目指すのは、単なるヴィンテージ古着の販売に留まらず、これら悠久の時をサバイブしてきた衣服の意匠を多角的な視点から紐解き、ゆくゆくは一冊の服飾史として結実するような資料的価値の高いコレクションを蓄積していくことです。その壮大なアーカイブの系譜において、名実ともに「フレンチワークの王様」として君臨し、圧倒的な存在感を放つジャンルが存在します。それが、1940年代にフランスで製造された「ダブルブレスト・ワークジャケット」です。今回ご紹介する衣服は、20世紀初頭に産声を上げたフレンチワーク界の最高峰メーカーである「Le Pigeon Voyageur(ル・ピジョン・ヴォワヤジュール)」の手によって仕立てられた、コットンツイル生地のダブルブレストジャケットです。40年代の激動の時代背景を色濃く残しながらも、内ポケットには同社の黄金期を示す貴重な刺繍タグが完璧な状態で現存し、なおかつ目立った汚れやダメージが一切見られない極上のコンディションを保っています。当店が厳選するハイエンドな一点ものセレクションのなかでも、本作は仕立ての希少性、ブランドの歴史的価値、そして衣服としての完成度のすべてにおいて、服飾資料としての価値を極限まで高めたスーパースペシャルなマスターピースです。

フレンチワークジャケットを回顧するとき、多くの人々が想起するのはシングルブレストの5つボタン仕様、いわゆる一般的なカバーオール型でしょう。それは農業や一般的な工場など、幅広い労働環境に向けて大量に生産された普遍的な衣服でした。それに対して、前合わせが深く重なり、ボタンが2列に整然と並ぶダブルブレスト仕様は、当時のフランスの衣服製造史において極めて特殊、かつ限定的な用途のために作られた特別な存在でした。このダブル仕様のジャケットは、主に石工や木工職人、あるいは金属加工を行う高度な技術職の人々のために支給されていました。彼らの労働環境は、木屑や砂塵、金属の火花が激しく舞い散り、あるいは寒風に晒される過酷なものでした。前合わせを深く重ねるダブルブレストの構造は、フロントの隙間からそれら塵埃や火花、冷気が衣服の内部に侵入することを完全に防ぎ、労働者の身体を保護するための「防護壁」としての必然から生まれたものです。また、ボタンが破損した際にもう一方の列で前合わせを留め直すことができるという実用的な合理性も兼ね備えていました。さらに注目すべきは、彼らがフランスの伝統的な職人組合などの誇り高きギルドに所属していたという文化的背景です。彼らは自らの職業に強烈な自負を持っており、そのユニフォームであるジャケットにも、単なる作業着を超えたサルトリアルなエレガンスと気品を求めました。そのため、ダブルブレストジャケットはワークウェアでありながら、非常に美しいラペルのカッティングや、立体的な仕立てが施されています。シングルブレストに比べて生産数が圧倒的に少なく、その多くが過酷な労働によって消費し尽くされたため、現代のヴィンテージ市場において、これほど美しい状態で現存している個体を見つけることは極めて困難であり、まさに「王様」と称されるにふわしい稀少性を誇っています。

本作の価値をさらに絶対的なものにしているのが、内ポケット部分に堂々と鎮座する、黒地に鮮やかな赤色の刺繍で羽ばたく伝書鳩が描かれたオリジナルのメーカータグ、通称「赤鳩タグ」の存在です。オーモリネルやル・モンサンミッシェル、アドルフ・ラフォンといった名門と並び、フレンチワークの歴史を創り上げてきたル・ピジョン・ヴォワヤジュールは、20世紀初頭にフランス西部の繊維産業の聖地において誕生しました。ブランド名が意味する「伝書鳩(旅する鳩)」というモチーフには、メーカーとしての高潔な思想が宿っています。無線通信やインフラが未発達だった時代、伝書鳩はどんなに激しい嵐や戦火のなかであっても、強い意志を持って必ず目的地である家へと生還する「強靭さ」と「高い信頼性」の象徴でした。ル・ピジョン・ヴォワヤジュールは、自らが仕立てる衣服を、どれほど過酷な労働環境であっても決して破れず、労働者の身体を安全に守り抜いて無事に家へと帰す衣服になぞらえ、この気高き紋章を掲げたのです。彼らのモノ作りは、徹底した職人技の追求にありました。特に注目すべきは、腕を前に出して作業する労働者の動きを計算し、静止状態でも袖がやや前方に湾曲する、人間工学的な「前振りの袖付け」に代表される高度なテーラリングのパターンワークです。これにより、肉厚で頑強な生地を使用しながらも、肩や腕の可動域を一切制限しない驚異的な着心地を実現していました。さらに、タグの右下に小さく刺繍された「A.F.C(Ateliers de Confection)」という文字は、1940年代の戦時下から戦後復興期にいたる物資統制のなかで、高い縫製技術を認められた公認アトリエの連合で仕立てられたことを証明する、極めて学術価値の高いマテリアル・エビデンスです。後年になると、これらのタグはコスト削減のためにプリントや簡易なワッペンへと簡略化されていくため、この立体的な総刺繍の織りネームが残っていること自体が、同社の技術が頂点にあった1940年代の黄金期に製造された証拠となります。タグのない個体が多いヴィンテージワークウェアにおいて、この最高峰のシグネチャーが完璧な状態で残っていることの希少性は、どれほど強調しても足りることはありません。

本作の表情を決定づけているのは、1940年代当時の旧式織機によって限界まで高密度に織り上げられた、極上のコットンツイル生地です。フレンチワークといえばモールスキン生地が有名ですが、この時代に作られた上質なコットンツイルもまた、モールスキンに劣らない独自の魅力と重厚感を備えています。特筆すべきは、生地の厚みとハリ感の絶妙なバランスです。本作のツイル生地は、比較的薄手で軽量でありながら、手で触れるとパリッとした力強いハリ感とコシがしっかりと残っています。これは、現行の大量生産品に見られる均一で厚手なツイルとは完全に一線を画し、当時の上質な原綿を贅沢に使用し、強い圧力をかけて織り上げられたからこそ生まれる、消え去った時代のテキスタイル技術の遺産です。コンディションの面においても、目立った汚れや糸のほつれ、深刻なダメージが一切見られない、奇跡的なクオリティを維持しています。長年の保管や数回の洗濯によって、ベースとなるフレンチインクブルーの青は深く濃く残りつつも、生地の表面にはヴィンテージ特有のわずかな擦れや気品のあるアタリが顔を覗かせ始めており、これ以上ない極上の佇まいを構築しています。この硬質なハリを残した状態から、自ら身に纏い、生活を共にしていくことで、コットンツイル特有の立体的なシワが刻まれ、着る人の身体のラインに沿ってさらに美しい風合いへと育っていく。ヴィンテージの醍醐味である経年変化のプロセスを、最も素晴らしいスタートラインから体験できるという点において、本作はコレクションとしても実用着としても至高の価値を備えています。

さらに、現代のファッションシーンにおいて、本作の価値を決定的に高めているのが、ヴィンテージワークジャケットとしては極めて稀少な「大きめのゴールデンサイズ」であるという事実です。1940年代当時のヨーロッパの労働者たちは現代人に比べて小柄であったため、現存するフレンチヴィンテージの多くは、現代の大人が着用するには肩幅や身幅が極端に狭いスモールサイズが圧倒的多数を占めます。そのなかで、ゆったりとした身幅を保ち、インナーにシャツや肉厚なスウェットをレイヤードしても美しいシルエットを維持できるこの大ぶりなサイズ感は、まさに奇跡的な邂逅と言えます。ダブルブレスト特有の深い前合わせが、ボタンを開けて羽織った際にはダイナミックなボリューム感と優美なAラインのドレープを生み出し、ボタンを全て留めた際には端正でクラシカルな、サルトリアルなエレガンスを漂わせます。現代の都会的なモードや洗練されたストリートのスタイルへと完璧にアジャストする、まさに実用とコレクションを兼ね備えた至高のピースです。

当店がこのジャケットを「資料的価値の高いアイテム」として位置づける理由は、単なる古い青い作業着としての希少性だけでなく、1940年代という激動のフランスの記憶、ル・ピジョン・ヴォワヤジュールという名門が誇った職人技の結晶、精度高く作り込まれたダブルブレストという「王様」の意匠が、これ以上ない完璧な状態で保存されているからです。希少なヴィンテージを所有することの意義は、その衣服に宿る「確かな価値の根拠」と歴史の断片を、自らのワードローブの一部として引き継ぐことにあります。衣服をただ消費するのではない、その背景にある歴史やコンテキストを読み解き、クローゼットに迎え入れること。それは、一冊の壮大な服飾の本の、重要な1ページを所有することと同義です。時空を超えて現代に圧倒的な存在感を留めるこのフレンチヴィンテージの至宝は、時代や流行がどのように移り変わろうとも、決して色褪せることのない普遍的な価値を、それを纏う者にアドバンテージを与え続けてくれるでしょう。当店が良いと思うアイテムの集積として、この先も未来へ遺すべき「美しい遺産」の筆頭として、自信を持っておすすめいたします。