20century French Antique Black Linen Biaude Maquignon Smock "DEAD STOCK"
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¥140,000 - 定価
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¥140,000
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COLOR : INDIGO
SIZE ONE:着丈102cm 肩幅67cm 身幅97.5cm 袖丈53cm
MATERIAL : INDIGO LINEN
19世紀の質実剛健なワークウェアや軍実物品としてのミリタリーウェアから、2000年代の洗練されたモダンアーカイブにいたるまで、衣服の歴史は常に時代の要請とデザイナーの思想によって形作られてきました。当店が目指すのは、単なるヴィンテージ古着の販売に留まらず、これら悠久の時をサバイブしてきた衣服の意匠を多角的な視点から紐解き、ゆくゆくは一冊の服飾史として結実するような資料的価値の高いコレクションを蓄積していくことです。その壮大なアーカイブの系譜において、フレンチアンティークの至高の頂点に君臨し、世界中のコレクターが渇望してやまない衣服がビヨード(BIAUDE)です。今回ご紹介する衣服は、フランスの広大な家畜市場において巨額の現金を動かし、農夫たちを束ねていたエリート仲買商「マキニョン」が好んで身に纏っていた「ブラックリネン・マキニョンスモック(ビヨード)」です。ビヨードの9割以上がインディゴ染めのブルーリネンで占められるアンティーク衣服の世界において、この「漆黒のブラックリネン」の個体は市場における球数が極端に少なく、存在自体が奇跡と謳われる代物です。しかも本作は、100年近く前の空気感をそのまま現代に保存した、一切の水通しがなされていない奇跡の「DEAD STOCK(デッドストック)」です。素材の圧倒的な希少性、当時の仕立て職人が遺した超絶的な手仕事、そして完璧な保存状態のすべてにおいて、博物館収蔵レベルの資料的価値を誇る至高のマスターピースです。
このブラックリネンビヨードを精査し、その詳細なディテールを紐解いていくと、本作が一体どれほど古い時代に作られたものであるのかという歴史の謎が、驚くべき立体感をもって浮かび上がってきます。衣服の構造、生地の質感、そしてボタンなどのハードウェアの総合的な観点から、本作の製造年代は「1900年代から1910年代(20世紀初頭・エドワーディアン〜第一次世界大戦期)」にまで遡る、極めて古い個体であると強く推測されます。その最大の指標となるのが、採用されているブラックリネンファブリックそのものが放つ、現代の麻素材とは完全に一線を画した妖艶な佇まいです。19世紀末から20世紀初頭のフレンチアンティークに見られるブラックリネンは、まだ化学染料が完全に普及する前の、天然のインディゴを極限まで濃く重ねて染め抜いた「濃紺(インクブルー)」の糸、あるいは鉄分などを混入した特殊な染料によって、深い「炭黒(スミクロ)」へと染め上げられた旧い手織りリネンです。デッドストックだからこそ、生地の表面には当時のリネン糸に含まれる油分や不純物が綺麗に遺っており、光を浴びるとまるでシルクや漆を塗ったかのような、鈍く、重厚で滑らかな光沢感を湛えています。水を通すことでプルプルとした質感へ育つ手前の、このパリッと硬質で、凛とした美しい立ち姿を維持しているファブリックのコンディションこそが、100年の時を眠り続けた衣服だけが持つ唯一無二のエビデンスです。
本来は通気性に優れた青いリネンを纏うはずの家畜市場(フェア)において、なぜ彼らはこの高価なブラックリネンを仕立てたのか。そこには、マキニョンたちが対峙していた過酷な現場のリアリティと、彼らが抱いていた強烈な「階級的プライド」が潜んでいます。興奮した巨大な馬や牛がひしめき合い、鋭い蹄や角、飛び散る泥や家畜の排泄物が激しく交錯する混沌とした市場において、黒という色彩は、付着した汚れを最も目立たせない現実的な「防護色」としての役割を果たしました。しかしそれ以上に、黒は当時のフランスにおいて富と権威を象徴する最高級の色でした。一般の労働者や農夫たちが青い衣服に身を包むなか、市場を支配するエリート仲買人たちは、自らの社会的地位やプロフェッショナルとしての威厳を誇示するため、特注した高価なブラックリネンに身を包み、周囲を圧倒したのです。洋服の上からガサッと羽織るだけで、中の上質なテーラードやドレスシャツを完全に泥から守り、同時に商談相手に強烈な風格を与えるための、まさに「戦束のコート」でした。
仕立ての面を観察すると、工場での大量生産の波に呑まれる前、当時の仕立て職人が注ぎ込んだ狂気的なまでの手仕事の痕跡が、凄まじいピッチで凝縮されています。本作の顔となる襟元には、緩やかなカーブを描きながらも、首元に美しく沿うように設計された「独特な形状の襟」が配されており、クラシックでありながらどこか都会的な気品を漂わせています。そして、首元や袖口の周辺に施された、息を呑むほど細かく、規則正しい「ギャザー(針の目の詰まったギャザリング)」の細密さは圧巻です。手作業でしか不可能な、まるで波打つ彫刻のように整然と寄せられたこのギャザーワークは、衣服にダイナミックな運動量と、動くたびに空気を孕んで優雅に広がる圧倒的に美しいAラインのバルーンシルエットを構築することに成功しています。細かいピッチで走るステッチワークの細緻さは、当時のフランスの仕立て技術の頂点を示す動かぬ証拠です。
ディテールワークの美しさは、衣服の工芸品としての格をさらに高めています。フロントの前立て、および袖口に配されたボタンには、古い時代特有の、鈍い贅沢な輝きを放つ「厚みのある小ぶりなシェルボタン」が採用されています。一つひとつ厚みや歪みの異なる白いボタンが、深いブラックリネンに対して星のように息を呑むほど美しいコントラストを描いています。フロントの胸元には、帳簿や小物を収めるためのシャープなパッチポケットが配置されている一方で、腰回りには、衣服の上から重ね着したスモックとしての本質的な機能である、中に着用しているジャケットのポケットへ直接アクセスできるように計算された「貫通ポケット(スリット)」が設置されています。無駄な装飾を一切排し、利便性と堅牢性だけを追求したこの重層設計は、ミリタリーウェアにも通じる冷徹な機能美を感じさせます。
通常、100年前の衣服がデッドストックで発掘されること自体が奇跡ですが、その多くは当時の労働者の体格に合わせた極端に小さなスモールサイズばかりです。しかし、本作は現代の大人がシャツやカットソーの上からリラックスして羽織ることができ、美しいドレープと落ち感を楽しめる、完璧なゴールデンサイズを維持しています。水を通していないデリケートな状態だからこそ、今後の最初のウォッシュによって生地が縮み、さらに持ち主の身体へと馴染んでいくプロセスを、世界で初めて「一から味わうことができる」という、着用者にとってこの上ない至高の特権が付随しています。
当店がこのフランスのブラックリネン・マキニョンスモックを資料的価値の高いアイテムとして位置づける理由は、インディゴを凌駕する天文学的な希少性を持つ黒い手織りリネン、1900年代初頭の黄金期を証明する細密なギャザーワークとシェルボタン、独特な襟の造形、そして「デッドストック」という奇跡的な保存状態が、すべて完璧な状態で一つの衣服にパッケージされているからです。希少なヴィンテージを所有することの意義は、その衣服に宿る確かな価値の根拠と歴史の断片を、自らのワードローブの一部として引き継ぐことにあります。衣服をただ消費するのではない、その背景にある歴史やコンテキストを読み解き、自らのクローゼットに迎え入れること。それは、一冊の壮大な服飾の本の、重要な1ページを所有することと同義です。時空を超えて完璧な姿のまま現代に足を踏み入れたこのフレンチアンティークの至宝は、時代や流行がどのように移り変わろうとも、決して色褪せることのない universal な価値を、それを纏う者に与え続けてくれるでしょう。当店が良いと思うアイテムの集積として、この先も未来へ遺すべき美しい遺産の筆頭として、自信を持っておすすめいたします。


