1990s FACONNABLE Valstarino Jacket

1990s FACONNABLE Valstarino Jacket

フランス・ニースで1950年に創業したファソナブルは、リヴィエラ地方の優雅なライフスタイルを象徴するブランドとして発展しました。地中海の陽光を感じさせる軽やかなカジュアルウェアから、ヨーロッパ的な上品さを備えたテーラードまでを幅広く展開し、特に1980年代以降はラグジュアリーカジュアルの代表格として確固たる地位を築いています。その顧客層には、リゾートを楽しむフランス紳士から国際的なセレブリティまで幅広く含まれており、クラシックでありながらどこか都会的なセンスが息づいています。

一方、ヴァルスターは1911年にイタリア・ミラノで創業したブランドであり、1935年に発表された「ヴァルスタリーノ（Valstarino）」は現在に至るまでブランドの象徴的モデルとして知られています。ヴァルスタリーノはアメリカのA-1フライトジャケットをイタリア流に再解釈したもので、短丈のブルゾン型、フロントボタン、リブ仕様という構造を特徴としています。実用性を備えながらも洗練された佇まいを持ち、ヨーロッパの「スポーツジャケット」の原点として数多くのブランドに影響を与えました。

この「90s FACONNABLE Valstarino Jacket」は、そのヴァルスターの名作をベースに、ファソナブルの感性で仕立て直した特別な存在です。フランス製という点も重要で、90年代当時はまだローカル生産が主流であり、縫製や仕立ての丁寧さがしっかりと感じられます。

ディテールを見ていくと、スタンドカラーから続く比翼仕立てのフロント、クラシックなフラップポケット、リブ仕様の袖口と裾が印象的です。これらはヴァルスタリーノのオリジナルディテールを忠実に踏襲していますが、ファソナブルの手にかかることでより柔らかく、都会的な雰囲気に仕上げられています。とりわけカラーリングには注目すべきで、深みのあるフォレストグリーンはフレンチブランドらしい気品を漂わせ、シンプルでありながらエレガントな存在感を放っています。

素材にはナイロンをベースにしたシェルが用いられており、軽量でありながら耐久性も兼ね備えています。当時のファソナブルはアウトドアやスポーツの要素をさりげなく取り入れつつ、ラグジュアリーなタッチを失わないことに注力しており、本品もまさにその思想を体現した一着といえるでしょう。ナイロン特有の光沢は抑えられており、マットな質感によってカジュアル過ぎない印象を与えます。これは90年代的な高級カジュアルの潮流を反映しており、今日においても普遍的な魅力を持っています。

シルエットは適度なゆとりを持ちつつも、リブの締まりによって全体のバランスが整えられています。90年代当時のリラックス感を備えながらも、クラシックなブルゾンとして現代のスタイリングにも容易に馴染む万能性を持っています。ジーンズやチノはもちろん、スラックスに合わせても違和感なく収まり、まさにファソナブルらしい「大人のカジュアルウェア」としての顔を持っています。

90年代のファソナブルは国際的な評価を確立した時期であり、その背景にある「フランス的な洗練」と「イタリア的な実用美」の融合は、このジャケットにおいても鮮やかに表現されています。単なるブルゾンではなく、バーバリーやラルフローレンと並び立つラグジュアリーカジュアルの一角を担ったブランドの哲学が宿っているのです。

この「90s FACONNABLE Valstarino Jacket Made in France」は、二つの名門ブランドの歴史と美学が交錯することで生まれた稀有な一着です。フランス製という生産背景、ヴァルスタリーノの名作ディテール、ファソナブルの洗練された色彩感覚、そのすべてが90年代という時代を象徴しています。今や市場に出回る機会は限られており、ヴィンテージとしての希少性も高まっています。袖を通すことで感じられるのは、単なる懐古ではなく、時代を超えて息づく「上質な日常着」の精神です。