WORK & MILITARY

1920~30's French antique SALACHE Indigo linen maquignon coat

定価
¥176,000
定価
特価
¥176,000
Tax included
COLOR : INDIGO

SIZE ONE:着丈102cm 肩幅54.5cm 身幅60cm 袖丈62cm

MATERIAL : INDHIGO LINEN

19世紀の質実剛健なワークウェアや軍実物品としてのミリタリーウェアから、2000年代の洗練されたモダンアーカイブにいたるまで、衣服の歴史は常に時代の要請とデザイナーの思想によって形作られてきました。当店が目指すのは、単なるヴィンテージ古着の販売に留まらず、これら悠久の時をサバイブしてきた衣服の意匠を多角的な視点から紐解き、ゆくゆくは一冊の服飾史として結実するような資料的価値の高いコレクションを蓄積していくことです。その壮大なアーカイブの系譜において、フレンチアンティークの頂点として世界中のコレクターが畏敬の念を抱き続ける素材が、深淵な美しさを湛えたインディゴリネンです。今回ご紹介する衣服は、1920年代から1930年代にかけてのフランスにおいて、馬の仲買人やエリート仲買商(マキニョン)がその身に纏っていた、極めて希少な「インディゴリネン・マキニョンコート」です。しかも本作は、当時のインディゴリネン製品において「最高峰のファクトリー」としてその名を轟かせた名門『SALACHE』の手によって仕立てられた、文字通りのスペシャルピースです。ビヨードのようなプルオーバー(スモック)タイプでも、ボタンが裾まで並ぶフルオープンタイプでもない、絶妙なフロント設計を持つ「コートタイプ」の本作は、実用美の極致とも言える複雑なディテールワークを無数に宿した、服飾資料としての価値を極限まで高めたマスターピースです。

本作を語る上で避けて通れないのが、フレンチワークの歴史において特別な地位を占めるメーカー『SALACHE』という存在の圧倒的な偉大さです。当時、多くのワークウェアが家内制手工業や小規模なアトリエで粗雑に作られていたなかで、SALACHEは卓越した職人技と高度な仕立て技術を統合し、富裕なマキニョンや馬主たちから絶大な信頼を勝ち得ていた最高峰のレーベルでした。SALACHEの素晴らしさは、その生地のクオリティと、一切の妥協を許さないパターンワークにあります。本作に採用されているインディゴリネンは、1920〜30年代特有の、限界まで細番手の高密度リネン糸を用いて織り上げられた極上のファブリックです。年月を経て数え切れないほどの洗いを経た現在、生地は驚くほどに柔らかく、風に美しく揺れるしなやかさを獲得しています。光が当たると、インディゴの深い染着とリネン特有の細かなネップが混ざり合い、まるで夜の海のように深く、妖艶なグラデーションの青を反射します。この「極上の色落ちと質感」を宿したファブリックを、現代の高級サルトリアにも引けを取らない立体的なカッティングで形作ることこそがSALACHEたる所以であり、フレンチアンティークのなかでも一線を画すプレミアムなオーラを放つ理由です。

さらに、本作がスモックやフルオープンではなく「コートタイプ」として仕立てられているという事実が、その希少性と特別な用途を雄弁に物語っています。マキニョン(仲買人)の仕事は、激しく動き回る家畜の管理から、大金が動くオークションでの商談にいたるまで多岐にわたりました。着脱に手間取るプルオーバーのスモックでは商談時の温度調節や利便性に欠け、一方で完全に前が開くフルオープンでは作業時に前立てが引っかかるリスクがありました。本作のような胸元下あたりまでフロントが開き、そこから美しいAラインを描いて広がるコート型は、頭から素早く被れる機動性を保ちながら、商談に相応しい上品な「コートとしての威厳」を両立させるために考飾された、エリート職能のための特別な設計なのです。

意匠を細部まで観察すると、当時のSALACHEの職人たちが注ぎ込んだ超絶的なディテールワークが随所に散りばめられています。フロントの開閉部を彩るボタンには、古い時代特有の不均一な厚みと上品な輝きを放つ天然のシェルボタンが配置され、深いインディゴブルーに対して息を呑むほど美しいコントラストを描いています。そして胸元を強く印象付けるのが、並列して設置された美しい「シザーポケット(鋏入れ)」です。獣医や仲買人が道具を収めるためのこの細長いポケットは、ただの直線の縫い目ではなく、縁部分のステッチワークにいたるまでミリ単位の正確さで細密に縫い上げられており、機能から導き出されたアバンギャルドな美しさをフロントマスクに与えています。さらに視線を袖口に移すと、風を遮断し袖をまくるためのアジャスター部分が、緩やかで有機的な「美しいカーブ」を描いてカッティングされていることに気付きます。こうした直線を排した曲線的なパターンワークこそ、SALACHEが最高峰たる職人のプライドの証明です。

腰回りのポケットワークもまた、本作のデザインにおいて最も実主義を体現した重層構造を持っています。左右のポケットは、クラシックなフレンチワークの象徴である美しい曲線を描く「Dポケット」仕様。その曲線美もさることながら、ポケットの奥には、中に着用しているテーラードジャケットやスラックスのポケットへ直接アクセスできるように計算された「貫通ポケット(スリット)」が別個で設置されています。衣服の上から重ね着するオーバーコートとしてのリアリティを極限まで追求したこの重層設計は、知的好奇心を激しく刺激します。さらに背面へと回り込むと、裾部分には美しい「センタースリット」が深く刻まれており、馬に跨る際や激しい足上げの際にも生地が突っ張らず、動くたびにインディゴリネンならではの軽やかでしなやかなドレープを生み出す構造になっています。長い歴史のなかで、襟裏には擦れによるダメージが刻まれていますが、この傷跡すらも、30年代という悠久の時を過酷な現場でサバイブしてきた歴史のエビデンスであり、ベースの深い青のなかで天然のパティナ(経年美)として美しく馴染んでいます。

当店がこのSALACHE製のインディゴリネン・マキニョンコートを資料的価値の高いアイテムとして位置づける理由は、最高峰メーカーの称号に恥じない極上のインディゴリネン、1920〜30年代を証明するライトウェイトな質感とシェルボタン、シザーポケットやDポケ、貫通スリットといった唯一無二のディテールが、歴史の堆積による美しい佇まいとともに現代に保存されているからです。希少なヴィンテージを所有することの意義は、その衣服に宿る確かな価値の根拠と歴史の断片を、自らのワードローブの一部として引き継ぐことにあります。衣服をただ消費するのではない、その背景にある歴史やコンテキストを読み解き、クローゼットに迎え入れること。それは、一冊の壮大な服飾の本の、重要な1ページを所有することと同義です。時空を超えて現代に洗練された姿を留めるこのフレンチアンティークの至宝は、時代や流行がどのように移り変わろうとも、決して色褪せることのない universal な価値を、それを纏う者に与え続けてくれるでしょう。当店が良いと思うアイテムの集積として、この先も未来へ遺すべき美しい遺産の筆頭として、自信を持っておすすめいたします。