97AW STONE ISLAND Wool Double Breasted Coat With Quilted Liner

97AW STONE ISLAND Wool Double Breatsted Coat with Quiltnd Liner

1982年、イタリア・ボローニャでマッシモ・オスティによって創設された〈STONE ISLAND〉は、以来「素材実験」と「革新」を核に、世界中のファッション史において特異な立ち位置を築いてきました。軍服や作業着といった実用服を研究対象としながら、既存のテキスタイルを再解釈し、あるいはまったく新しい素材を開発することで、常に“機能美”と“独創性”を両立させてきたブランドです。

創設者のオスティは1994年に退任しますが、その後を継いだのが英国人デザイナーの ポール・ハーヴィー（Paul Harvey） です。彼は1995年から2005年までSTONE ISLANDのクリエイティブ・ディレクションを担い、ブランドの実験精神を受け継ぎながらも、より「着るためのリアリティ」にフォーカスしたコレクションを展開しました。オスティが築いた“素材の実験室”としての側面に、英国的なクラシシズムと機能服のバランスを加えたことで、STONE ISLANDは新たな成熟期を迎えたのです。

本作「97AW Wool Double Breasted Coat with Quilted Liner」は、まさにそのハーヴィー時代の代表的な一着といえるでしょう。まず目を引くのは、クラシックな ダブルブレステッド・コート の意匠。伝統的なピーコートやチェスターを想起させるこのデザインは、STONE ISLANDのラインナップにおいてはやや異色ともいえる存在です。しかしここにこそ、ハーヴィーの意図が込められています。彼はブランドの根底にあるミリタリーやワークの要素を保ちながらも、同時にクラシックなアウターウェアの要素を導入することで、より都市生活者にフィットするプロダクトを志向しました。

素材にはウールが使用されています。STONE ISLANDといえばナイロンやコットンに特殊加工を施したファブリックが広く知られていますが、この時期にはウールやリネンといった天然素材の可能性も積極的に探求されていました。本作のウールはしっかりとした打ち込みで織られ、耐久性と防寒性に優れると同時に、表面には奥行きのある杢調の表情を宿しています。さらにSTONE ISLAND独自のガーメントダイを施すことで、通常のウールコートには見られない深みとニュアンスを獲得しています。グレーの色味ひとつとっても、単なるフラットな色調ではなく、光の加減によって陰影を帯び、着用者の動きに合わせて豊かな表情を見せてくれます。

そして、このコートを特別な存在にしているのが 取り外し可能なキルティングライナー の存在です。STONE ISLANDは創設当初から「機能服」であることを強調してきましたが、この仕様はその思想を端的に示しています。ライナーを装着すれば冬季の防寒アウターとして活躍し、取り外せば春先や秋口にも対応可能。1着の中で多様なシーンに適応する柔軟性は、実用服としての真価を体現しています。

デザイン面でもSTONE ISLANDらしい工夫が随所に光ります。ダブルのフロントに配された大きめのボタンは視覚的な強さを生み、ミリタリーコートを思わせる力強い佇まいを演出。一方でシルエットは程よく洗練され、無骨さに偏りすぎないバランス感覚が光ります。左腕にはもちろんブランドの象徴である 羅針盤のパッチ が取り付けられており、クラシックなデザインの中に確かにSTONE ISLANDのアイデンティティを刻んでいます。

97AWという時代を振り返ると、このコートは“STONE ISLANDがクラシックと実験を融合させた証拠”とも言えます。オスティが残した大胆な素材実験の系譜を継ぎながら、ハーヴィーはそれを日常のリアリティへと翻訳することに成功しました。本作のようなウールコートはその好例であり、クラシックな外観と機能的な構造を同時に成立させることで、他のどのブランドにもない独自の存在感を放っています。

アーカイブ市場においても、90年代ハーヴィー期のアイテムは再評価が進んでいます。特に天然素材を扱ったアイテムは流通量が少なく、現存する個体の希少性は年々高まっています。さらに本作はライナー付きという点で評価が高く、フルセットで残されているものはコレクターズアイテムとして非常に価値のある存在です。

―― 1997AW Wool Double Breasted Coatは、STONE ISLANDが誇る素材探求の精神と、ポール・ハーヴィーが持ち込んだクラシックな感性が融合した傑作です。時代を超えても色褪せない機能美と風格は、まさにアーカイブとして所有するにふさわしい一着。

クラシックを実験する。その到達点を、この１着で。