95SS STONE ISLAND Formula Steel Jacket

95SS STONE ISLAND Formula Steel Jacket

1982年にマッシモ・オスティが創設した〈STONE ISLAND（ストーンアイランド）〉は、イタリアン・スポーツウェアの中でも異彩を放つ存在として、今なお世界中のファッション愛好家を魅了し続けています。創業当初から一貫して「素材の実験と革新」に重きを置き、工業用生地や軍用素材を大胆に転用し、衣服の概念そのものを拡張してきました。その歩みの中で数多くの伝説的な素材が生み出されましたが、1990年代半ばに発表された「Formula Steel」シリーズは、その中でも特別な輝きを放つアーカイブのひとつです。

“Formula Steel”という名前からも想像される通り、このシリーズの最大の特徴は、従来のナイロンやポリエステル素材では決して表現できない、金属的な光沢と重量感、そして圧倒的な強度です。STONE ISLANDは単なる“見た目のデザイン”ではなく、テキスタイル自体を再構築することで、これまで衣服には用いられることのなかった領域を切り拓いてきました。Formula Steelもまた、そうした革新の産物であり、まるで工業資材のようなファブリックをジャケットに落とし込むことで、他のどのブランドにもない存在感を放っています。

この素材は、ナイロンやコットンをベースに、特殊な樹脂や合成繊維を幾重にも重ね、さらに光沢加工を施すことで生まれたもの。視覚的にはスチールを思わせる冷ややかな輝きを放ちつつ、手に取れば布地としてのしなやかさを持ち合わせています。その二面性が、このシリーズの大きな魅力であり、着用者に圧倒的な存在感を与えるのです。

1995年春夏コレクションという時代背景も重要です。この時期、STONE ISLANDはすでに国際的な評価を得ており、マッシモ・オスティが確立した「素材実験のDNA」を受け継ぎつつ、新たな進化を遂げていました。80年代のセイルクロスやラバー加工の実験を経て、90年代半ばにはより工業的で近未来的な素材開発にシフト。その象徴こそが、このFormula Steelです。

国内においてもこのシリーズは特に人気が高く、アーカイブ市場では常に高い評価を受けています。その理由は単に希少だからではなく、“一目でSTONE ISLANDとわかる存在感”と“他では得られない着用体験”があるからです。ナイロンジャケットが軽快でスポーティな印象を持つのに対し、Formula Steel Jacketは重厚で、まるでアーマーのような迫力を備えています。光が当たると金属のように鈍く反射し、街中でも圧倒的なオーラを放つのです。

そして私的な感想を付け加えるなら、このジャケットの魅力は「ナイロンにはない頑丈さと光沢」に尽きます。ナイロンの艶やかさや軽さももちろん魅力ですが、Formula Steelの持つ“無骨さ”と“存在感”はその上をいきます。布でありながらまるで鋼鉄のように見えるその質感は、STONE ISLANDにしか生み出せない独自の領域です。実際に手にすると、硬質な表情を持ちながら、身体の動きに合わせて柔らかく馴染んでいく。この矛盾するような感覚こそが、着る者を虜にする最大の理由だと思います。

また、このシリーズは耐久性の高さでも知られています。30年近い時を経てもコンディションが良好に保たれている個体が存在するのは、この素材の強度がいかに優れていたかを物語っています。染色の深み、光沢の持続、そして摩耗に強い表面は、単なる衣服という枠を超え、プロダクトとしての完成度を証明しています。

ディテールを見ても、STONE ISLANDならではの機能美が光ります。大ぶりのボタン、使い勝手の良いポケット配置、立体的な袖のカッティングは、すべてが機能に根ざしたデザインです。そして左腕に取り付けられたコンパスパッチは、このブランドが常に探究と航海の象徴であることを示しています。

こうした背景を踏まえると、95SS Formula Steel Jacketは単なるアウターではなく、STONE ISLANDの実験精神を象徴するアーカイブピースであると言えます。希少性はもちろん、今見ても未来的で新鮮な素材感は、ファッションの歴史の中で特異な位置を占めています。

国内外で高い人気を誇り、アーカイブ市場でもほとんど出回らないこの一着は、所有すること自体がコレクションの到達点であり、同時にブランドの哲学を肌で感じる体験そのものです。

ナイロンにはない、鋼鉄のような輝きと頑丈さ。95SS Formula Steel Jacket は、STONE ISLANDが切り拓いた未来を今に伝える、究極のアーカイブです。