83AW C.P.COMPANY JAPANESE NYLON FIELD JACKET

83AW C.P.COMPANY JAPANESE NYLON FIELD JACKET 

1970年代初頭に創設された〈C.P. COMPANY〉は、創業者マッシモ・オスティ（Massimo Osti）の比類なき実験精神によって、わずか十数年の間にミリタリー＆ワークウェアの文脈を現代ファッションへ昇華させた革新的ブランドへと成長しました。特に1980年代前半は、オスティの才能が最も爆発していた黄金期といえます。その中心にあったのが「素材と染色の革新」です。

本作「Japanese Nylon Field Jacket」が発表された1983年秋冬は、まさにその代表的なタイミングでした。イタリア国内ではまだナイロンを衣料用素材として積極的に活用する文化が根付いておらず、多くのデザイナーがウールやコットンなど伝統的素材を主軸に据えていた時代。そんな中でオスティは、耐久性と軽量性を兼ね備えた高密度ナイロンに強い関心を示し、素材調達のために目を付けたのが日本の繊維産業でした。

当時、日本の合成繊維は世界でもトップクラスの品質を誇っており、特に撥水性や耐摩耗性に優れたナイロン生地は軍需やアウトドア用途としても高く評価されていました。オスティはこの「日本製ナイロン」をイタリアに輸入し、C.P. COMPANY独自のプロダクトに応用したのです。本作のネーミングに「Japanese Nylon」と明記されているのは、その誇りと革新性を示す証拠と言えるでしょう。

デザインは、クラシックなフィールドジャケットをベースにしています。4つのフラップポケットは収納性とユーティリティを強調し、フロントは比翼仕立てで風の侵入を防ぐ仕様。さらに特徴的なのが、スエードレザーを部分的に切り替えたコンビネーションです。ショルダー、エルボー、そして胸ポケットのフラップなど、摩耗しやすい部位にレザーを配置することで耐久性を向上させると同時に、ナイロンの光沢とのコントラストが独特の表情を生み出しています。これはミリタリーウェアの実用性と、ファッションとしての造形美を高次元で両立させたオスティならではのアプローチです。

加えて、リブ編みの袖口や襟のディテールも見逃せません。ニットの温かみを取り入れることで、無機質になりがちなナイロン素材に有機的な柔らかさを加えています。内側に配されたストライプライニングは、視覚的な遊び心であると同時に、着脱時にだけ現れる“隠れたデザイン”として所有者に密やかな喜びを与える仕掛けでした。

オスティが提唱した「ガーメントダイ（製品染め）」技術も、この時期にはすでにC.P. COMPANYの代名詞となっていましたが、本作は合成繊維であるナイロンと、天然皮革やニットといった異素材を組み合わせた先鋭的な試み。製品染めを行う際、素材ごとの染まり方が異なるため、意図的に生まれる色の濃淡やムラ感が一着ごとに個性を与えます。これにより、まるで一点物のような佇まいを獲得し、量産品でありながら工芸品のような存在感を放ちます。

この「Japanese Nylon Field Jacket」が持つ魅力は、単なるアウターを超えた思想性にあります。80年代初頭のファッション界において「ナイロンジャケット」と言えばスポーツウェアやアウトドアウェアが主流でしたが、オスティはそれを都市生活者のための“デイリーなユニフォーム”へと昇華しました。フィールドジャケットというミリタリーベースの構造を踏襲しつつ、日本製ナイロンの先進性とヨーロッパ的クラフツマンシップを掛け合わせた本作は、まさに東西の文化を融合させたハイブリッドピースです。

今日のアーカイブ市場においても、その評価は非常に高いものがあります。C.P. COMPANYの80年代初期作は流通数が極端に少なく、特にこの「Japanese Nylon」の名を冠したジャケットは、素材の希少性と当時の革新性を体現する象徴としてコレクターズアイテム化しています。状態の良い個体はほとんど見つからず、現存するだけで大きな価値を持つといえるでしょう。

―― 83AW C.P. COMPANY Japanese Nylon Field Jacketは、マッシモ・オスティが「素材の未来」を見据えて行った実験の結晶であり、同時にブランド史における重要なターニングポイントを示す作品です。伝統的なフィールドウェアの実用性に、日本のテキスタイル技術、そしてオスティの染色美学が重なり合うことで生まれたこの一着は、今なお比類なき存在感を放ち続けています。

アーカイブに加えることは、単に一着のジャケットを所有することではなく、ファッション史の転換点を手元に置くことと同義です。