HERMES LAMBSKIN Suede Leather Zip Jacket

HERMES LAMBSKIN Suede Leather Zip Jacket

深みのあるブルーグレーの色調が印象的なこちらのブルゾンは、エルメスのアトリエが誇る最高峰のクラフツマンシップを感じさせる一着です。表地には柔らかく鞣されたラムスキンのスウェードレザーを採用し、着る人の身体に沿うように優しく馴染んでいきます。退色したような表情は、まるで時間をかけて自然に風合いが育ったかのような味わいを持ち、ビンテージならではの奥行きを感じさせます。表面のわずかなムラ感や陰影は、素材そのものが持つ生命力を映し出しており、ひとつとして同じ表情を持つものはありません。

襟や裾、袖口のリブには鮮やかなブルーが配され、くすんだスウェードとのコントラストが絶妙です。このブルーは単なる差し色ではなく、エルメスが得意とする「色の調和」へのこだわりを象徴しています。控えめでありながらも確実に印象に残る配色は、シンプルなブルゾンに知的な印象と上質な遊び心を添えています。

フロントのファスナーはスイスの名門「riri」製。世界でも限られたブランドのみが使用を許される高品質ジップであり、その滑らかな開閉感と金属の重みが、細部に宿る贅沢を感じさせます。裏地にはエルメスのロゴが織り込まれたアセテート生地が使用され、動くたびにわずかに光を反射して、見えない部分にまで気品を漂わせます。ブルーのライニングが表地と呼応するように配置されており、袖を通した瞬間に感じる統一感は、まさにエルメスならではの設計です。

フランス製であることも、このジャケットの価値を一層引き立てています。エルメスはニットやカットソー類を主にイタリアで生産する一方で、レザーアウターの多くは自国フランスで製作しています。それは単なる国籍の違いではなく、「素材を超えて、文化としての皮革を扱う」という理念の表れです。馬具作りから始まったエルメスにとって、革は単なる素材ではなく、ブランドの原点を象徴する存在。フランスの伝統的なレザー工房で一点一点仕上げられた製品には、アトリエの職人たちの息遣いと、ブランドが守り続ける哲学が確かに息づいています。

また、現行のエルメスが放つ洗練されたモダニティとは異なり、このジャケットにはどこか「時間の美学」とも言うべき静かな佇まいがあります。ややオーバー気味のシルエットは、90年代から2000年代初頭の空気を感じさせ、身体に馴染む自然なフォルムを描きます。過度な装飾は排されながらも、構築的なパターンがもたらす立体感は見事で、シンプルでありながら確かな存在感を放ちます。まるで空気を纏うような軽さを持ちながら、袖を通すたびに感じるのは“確かな重み”。それは素材の厚みではなく、クラフトマンシップが積み重ねられた時間そのものの重みです。

スタイリングにおいても汎用性が高く、インナーに白シャツやタートルネックを合わせれば上品なカジュアルに、Tシャツやデニムと合わせれば抜け感のあるラグジュアリーな装いに仕上がります。退色したブルーグレーは光の加減で表情を変え、屋内では深みのあるグレー、日差しの下では淡いブルーとして映えるため、季節を問わず着用していただけます。

現行のエルメスでは決して再現されることのないこの独特の風合いは、時代を超えた一点物としての魅力を放っています。エルメスが築いてきた歴史、素材への敬意、そしてフランスの職人技術。そのすべてが一着の中に凝縮されているこのスウェードジャケットは、単なるファッションアイテムではなく、「時間を纏うための道具」と呼ぶにふさわしい存在です。

袖を通した瞬間、そこに流れる空気が少しだけ変わる。それが、このジャケットの持つ力です。