1920~30's French antique Zouave Sarouel Trousers
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COLOR : BLACK
SIZE ONE:ウエスト92.5cm 股上75cm 股下36cm ワタリ58cm 裾幅16.5cm
1920~30's French antique Zouave Sarouel Trousers
20世紀前半、ヨーロッパの服飾史において独自の存在感を放つのが、アルジェリアや北アフリカにルーツを持つ「ズアーヴ・サルエル・トラウザーズ(Zouave Sarouel Trousers)」です。その源流は19世紀、フランス植民地軍に属した「ズアーヴ兵(Zouaves)」の軍装にまで遡ります。彼らは北アフリカ・マグレブ地方の民族衣装から着想を得た、極めてワイドで股上の深いパンツを軍装の一部として採用し、エキゾチックかつ威厳を備えた姿で知られました。ズアーヴ兵の独特なスタイルはやがてフランス本国に逆輸入され、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、民間の舞台芸術や伝統行事、さらにはワークウェアや日常着の意匠へと変容していきます。
今回ご紹介する一本は、1920〜30年代フランスで仕立てられた、極めて希少なアンティーク・ズアーヴ・サルエル・トラウザーズ。その最大の特徴は、通常コットン地が用いられることの多いズアーヴパンツにおいて、非常に珍しい“レーヨン混のような滑らかでとろみのある素材”が使われている点です。落ち感のある生地は身体の動きにしなやかに追随し、光を受けるたびにわずかに艶を放つ様は、コットンでは決して得られないモードな佇まいを纏わせています。この流れるようなドレープは、従来の武骨で土着的な印象を持つズアーヴパンツに、どこか洗練されたモダン性を与えているのです。
加えて注目すべきは、装飾性の高さです。一般的に見られる刺繍はポケット口の周囲に限定されることが多いのですが、本個体には裾口にまで丁寧に刺繍が施されています。ジオメトリックな模様が連なるその意匠は、衣服全体をより華やかに、そして格式高く演出しており、単なる作業着や民族衣装の枠を超え、舞台衣装や特別な祭礼のために仕立てられた可能性すら想起させます。しかも、その刺繍糸は一般的な白糸ではなく、黄味がかった生成色のようなトーンが用いられている点も見逃せません。深いブラックの地に、少し経年したようなアンバーがかった糸色が浮かび上がることで、全体にヴィンテージならではの奥行きある表情を生み出しています。この糸色の選択ひとつ取っても、当時の職人の美意識や意匠性の高さを感じ取ることができます。
シルエット面でも、この個体は特筆すべき特徴を備えています。ズアーヴパンツには股上の浅いタイプも存在しますが、本品はしっかりと股上が深く設計されており、そのボリューム感が強調されています。腰から裾へとたっぷりとられたプリーツが優美なドレープを描き、穿いた際にはまるで日本の袴を思わせるような造形を見せます。ギャルソンやヨウジヤマモトといった1980年代以降の日本のデザイナーが生み出した、和装の構造をモードへ昇華させたスタイルを先取りしたかのようなデザインであり、フランス発祥のズアーヴパンツが、国境や時代を超えて日本的な美意識と響き合う瞬間を体現しています。アンティークでありながら、現代的なファッションとの親和性を感じさせるその佇まいは、単なるコレクションピースではなく、今なお実際のスタイリングに取り入れ得る力を備えています。
歴史的背景を踏まえると、1920〜30年代という時代はフランス社会が大きな変革を迎えていた時期でもあります。第一次世界大戦後の混乱と復興の中で、異国的な文化や芸術が強い刺激として流入し、服飾においても東洋趣味やアールデコ様式が隆盛しました。ズアーヴ・サルエル・トラウザーズもまた、そのような文化的交差点で再解釈され、舞台芸術や新興のモードの文脈で息を吹き返したのです。その意味で、本品に見られる艶やかな素材選びや、刺繍に込められた装飾性は、まさに当時の時代精神を反映したものだと言えるでしょう。
現在、このように保存状態が良く、かつこれほど意匠的な要素を持ち合わせたズアーヴ・サルエル・トラウザーズに出会えることは、極めて稀です。ブラックカラーに映える黄味がかった刺繍糸、通常には見られない裾の装飾、レーヨンのようにとろみのあるドレープ素材、深い股上によって生み出される袴のようなシルエット——そのすべてが重なり合い、この一本を唯一無二の存在にしています。
歴史的背景と美意識を併せ持つアンティークでありながら、現代のモードとも鮮やかに共鳴するこのパンツは、コレクションの枠を超え、日常に新たな物語を添える一着となるでしょう。フランスと日本、伝統と革新、民族衣装とモード。その狭間に立つこの希少な個体は、まさに「装うことの意味」を問いかける存在です。
ぜひこの機会に、100年の時を超えてなお輝きを放つフレンチ・アンティークの真髄を手にしていただきたいと思います。


